機械仕掛けの鯨が

読んだ本の紹介など。書いてる人:鯨井久志

2019-01-01から1年間の記事一覧

漫才の中の魔術的リアリズム――Aマッソ「新しい友達」より

お笑いコンビ・Aマッソのネタに「新しい友達」というものがある。実際の映像は「Aマッソ 新しい友達」などで各自検索して頂くとして、以下ではそのネタの話をしたい。 まずボケ担当の村上が、ツッコミ担当の加納に「新しい友達ができた」と言う。「Pちゃん」…

【告知】レビュー誌『カモガワGブックス vol.1 非英語圏文学特集』

hanfpen.hatenablog.com 上の記事の補足記事です。 C94で海外文学レビュー同人誌出します。スペースは日曜西こ30b。京大SF研ブースで委託という形です。 頒布するのは『カモガワGブックス』(略称:KGB)という同人雑誌の創刊号で、今回は《非英語圏文学特集…

恐怖の歴史を繋ぐ犬――レオナルド・パドゥーラ『犬を愛した男』

犬を愛した男 [ レオナルド・パドゥーラ ]ジャンル: 本・雑誌・コミック > 小説・エッセイ > 外国の小説ショップ: 楽天ブックス価格: 4,320円 レフ・ダヴィドヴィチ・トロツキー。ロシア十月革命における指導者の一人としてソビエト連邦建国に関わった後、ス…

削ぎ落とされた影の歴史の回復――フアン・ガブリエル・バスケス『コスタグアナ秘史』

小説を書く上で必要なリアリティを、小説家はどこから得るのか。最も手っ取り早いのは、自らの経験をそのまま小説に落とし込むことだろう。だがそれにも限界はあり、文豪ジョゼフ・コンラッドもそれに悩んだ一人であった。本作は彼が著した『ノストローモ』…

エロ漫画か?――ホセ・ドノソ『ロリア侯爵夫人の失踪』

――エロ漫画か? 本書を読んで抱いた、評者の率直な感想だ。 まず冒頭の挿話からしておかしい。舞台は一九二〇年代のスペイン・マドリード。ニカラグアの首都マナグアに生まれ、外交官の娘としてマドリードに住む主人公ブランカ・アリアスは、ロリア侯爵こと…

【告知】夏コミでレビュー誌『カモガワGブックス vol.1 《非英語圏文学特集》』出します

今年の夏コミで同人誌を出します。大きな括りでレビュー誌です。 出すのは『カモガワGブックス』(略称:KGB)という同人雑誌の創刊号で、今回は《非英語圏文学特集》。 載るのは、イタリア語・スペイン語・フランス語etcといった非英語で書かれた文学作品の…

乗り越えろペダン――アレホ・カルペンティエール『方法異説』

読みにくいよ、この本。 『族長の秋』『至高の我』と並んでラテンアメリカ文学の三大独裁者小説と称される本作だが、カルペンティエールのまどろっこしい文体——人称が交錯する語り、延々と羅列される固有名詞、そして今あなたが読んでいるような挿入句の多用…

筒井康隆『虚航船団』読書会レポ

読書会レジュメお蔵出し企画第二弾。 1 作者について 昭和9年(1934年)生まれ。同志社大学文学部で美学芸術学を専攻。展示装飾を専門とする会社を経てデザインスタジオを設立、昭和35年SF同人誌「NULL」(ヌル)を発刊。江戸川乱歩に認められてデビュー…

伊藤計劃『ハーモニー』読書会レポ

レポ、という名のレジュメの再構成。 2018年度新歓読書会にて行った『ハーモニー』読書会に向けて作成したレジュメより。お蔵入りさせるのも忍びなかったので、なんとなく公開。実際の読書会では、参加者から「ハーモニーはセカイ系なんですか?」という質問…

パロディとナンセンスに満ちた壮大な日本野球創設神話――高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』

もし「世界三大野球小説」というものを考えるならば、本作は絶対に外せない。ロバート・クーヴァー『ユニヴァーサル野球協会』、フィリップ・ロス『素晴らしいアメリカ野球』、井村恭一『ベイスボイル・ブック』、石川博品『後宮楽園球場』など、国内国外を…

メキシコ・アメリカに跨る透明な境界、そして百合――カルロス・フエンテス『ガラスの国境』

表題にある「ガラスの国境」とは、メキシコとアメリカ合衆国の国境のことを指す。 本来、国と国を隔てる国境とは、社会的な取り決めでしかない(陸続きの土地に何故境目が存在せねばならないのだろう?)。ゆえに、国境とは透明で実態のない存在であるべきは…

詩人の死に迫る、フィクションよりもフィクションなノンフィクション――小笠原豊樹『マヤコフスキー事件』

時に、優れたノンフィクションはフィクションに限りなく接近する。本書もそんな一冊だ。 舞台は1930年のロシア。そこである詩人が不審な死を遂げた。 現地警察は拳銃自殺と断定したものの、不可解な点の残る現場状況や彼を取り巻いていた環境、そして当時の…

〈陰〉としての魔術的リアリズム――ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』

本作が日本語に初めて訳されたのは集英社版《世界の文学》の一巻として出版された一九七六年。八四年には同じく集英社から叢書《ラテンアメリカの文学》内の一冊として再刊されたものの、それから三〇年余り――世紀を跨いで二〇一八年を迎えるまで――このラテ…