機械仕掛けの鯨が

読んだ本の紹介など。書いてる人:鯨井久志

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

不思議な浮遊感漂う現代アメリカ幻想小説傑作集――『どこにもない国 現代アメリカ幻想小説集』

どこにもない国―現代アメリカ幻想小説集 松柏社 Amazon 柴田元幸が紹介する作品には、大まかに二通りの類型がある。スチュアート・ダイベックに代表される地味ながらしっとりとした叙情に満ちたリアリズム小説と、スティーヴン・ミルハウザーに代表される幻…

読者の"愛"の概念を拡張するアンソロジー――『むずかしい愛 現代英米愛の小説集』

むずかしい愛―現代英米愛の小説集 朝日新聞社 Amazon 「○○ってなんだろう」と、ある概念について考える時の一つの方法として、「極端な具体例を考えてみる」というものがある。例えば「SFってなんだろう」と考える時に、妙な科学技術が出てこないにもかか…

「異人」としての老人を描いた特異なアンソロジー――『いまどきの老人』

いまどきの老人 朝日新聞社 Amazon 現実における「老い」の問題はたいてい悲観的だ。肉体的な衰え、介護問題、子や孫との確執、安楽死問題……。少年には無限の可能性がある(かもしれない。そうとも限らない)が、老人には「死」という歴然とした結末が可視範…

奇跡じみた打率の傑作アンソロジー――『夜の姉妹団 とびきりの現代英米小説14篇』

夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇 作者:ミルハウザー,スティーヴン,ヨッセル,ミハイル,ダイベック,スチュアート,ブラウン,レベッカ 朝日新聞社 Amazon 奇跡じみた打率の一冊である。副題に添えられた「とびきりの現代英米小説」という惹句に偽りはない…

Worryしっぱなしのトラウマ少年小説集――『Don't Worry Boys 現代アメリカ少年小説集』

Don't worry boys―現代アメリカ少年小説集 大和書房 Amazon 柴田元幸といえば少年小説……という気がしなくもない。本書に加えてもう一冊少年小説アンソロジーを編んでいるし(『昨日のように遠い日』)、少年小説の定番『トム・ソーヤの冒険』『ハックルベリ…

奇想あふれる柴田元幸第一アンソロジー――『世界の肌ざわり 新しいアメリカの短編』

世界の肌ざわり―新しいアメリカの短篇 (新しいアメリカの小説) 白水社 Amazon 本書は柴田元幸編アンソロジーにとっての——柴田元幸氏そのものにとってのと言ってもいいだろう——記念碑的一冊である。というのも、柴田氏の翻訳家人生の始まりが白水社の叢書《新…

面白いSFが読みたい人に――『中国SF女性作家アンソロジー 走る赤』

中国女性SF作家アンソロジー-走る赤 (単行本) 作者: 中央公論新社 Amazon 近年、中国SFが盛り上がっていることを否定するSFファンはいないだろう。『三体』大ヒットに牽引されるような形で続く各種作家の作品刊行の波はいまなお収まるところを知らず、そ…