機械仕掛けの鯨が

読んだ本の紹介など。書いてる人:鯨井久志

SF

ジョン・スラデック『チク・タク×10』がベストSF2023に選ばれました

SFが読みたい!2024年版 早川書房 Amazon チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク (竹書房文庫) 作者:ジョン・スラデック 竹書房 Amazon 毎年恒例のムック本『SFが読みた…

最近読んだ未訳短編の感想まとめ

SF

kyofes.kusfa.jp 京フェスに登壇することになったので、それも含めて自分なりのまとめ。 大体Twitterからのコピペ。 www.uncannymagazine.com "Rabbit Test" by Samantha Mills 読んだ。未来の妊娠中絶を巡る物語の中に、これまでの女性たちと妊娠検査・中絶…

【告知】紙魚の手帖 vol.12 AUGUST 2023 に翻訳SFのレビューを書きました

www.tsogen.co.jp 8月12日発売の紙魚の手帖 vol.12(東京創元社)に翻訳SFのレビューを書きました。 今回は「夏のSF特集号」ということで、以前刊行されていた書き下ろしSFアンソロジー『GENESIS』と合流する形で、SF中心の誌面になっています。 国内SFのブ…

鉄とコンクリートの匂い立つ、現代の神話――J・G・バラード『クラッシュ』

クラッシュ (創元SF文庫) 作者:J.G. バラード 東京創元社 Amazon J・G・バラードとは一体何者だったのか? 従来のSFへ反旗を翻し、「内宇宙」をキーワードにSF界にニューウェーブ運動を起こした張本人。いわゆる《破滅三部作》で外世界のカタストロフ…

韓松エッセイ「中国SFを海外に発信すること――新しい対話」

韓松のエッセイを翻訳した。底本は昨日のインタビューと同じA Primer to Han Song。韓松流の中国SFが世界で受容されている理由の考察と、今後の行く末について。 Exploring Dark Short Fiction #5: A Primer to Han Song (English Edition) 作者:Guignard, E…

韓松インタビュー(聞き手:エリック・J・ガードナー)

中国SF四天王の一人、韓松(Han Song)のインタビューを勝手に翻訳した。 底本は韓松初の英訳短編集 A Primer to Han Song、聞き手は Eric J. Guignard。短篇集についてのレビューは以前書いたのでそちらを参照。面白いのでぜひ買って読んでください。 han…

〈SFマガジン〉2019年2月号〈百合特集〉 「百合SFガイド2018」掲載の書評より再録

SF

SFマガジンの1回目の百合特集に書いた書評より。『四人制姉妹百合物帳』は剃毛百合の傑作ですよ。登場人物のひとりがバルガス=リョサ『都会と犬ども』読んでるし。 SFマガジン 2019年 02 月号 早川書房 Amazon *** つくみず『少女終末旅行』 全てが終わ…

地に足のついた哲学的日常SF――つばな『第七女子会彷徨』

第七女子会彷徨(1) (RYU COMICS) 作者:つばな 徳間書店(リュウ・コミックス) Amazon 誰が言った言葉だったかは今思い出せないのだが、SFとは目的であるというより手段だという。確かに、普段隠れてしまっている身の回りの物事や法則を未来的なガジェ…

スクラップ&スクラップな精神に溢れた実験文学の金字塔――筒井康隆『虚人たち』

筒井御大のお誕生日記念企画第2弾。 京大SF研では1回生に自分の好きな作品のレビューを書いてもらって、それを会誌(『WORKBOOK』)に載せる……という文化があったのだが、当時激尖りしていた僕は、みんなが1000字くらいに収めるところを以下のように6000字以…

実験文学、そして奇想SFの到達点――筒井康隆『残像に口紅を』

御大のお誕生日ということで、過去(学生時代)に書いた書評を再掲します。 『虚航船団』『虚人たち』『残像に口紅を』の3部作には、読書体験の根幹を形作ってもらいました。今読んでもきっとその大胆さは健在なはず。 残像に口紅を (中公文庫) 作者:筒井康…

海外ユーモアSFアンソロジー(仮)を編む 架空アンソロジーの試み

SF

笑える話が好きだ。 変な発想(=奇想)を繰り出して、「そんなアホな」と言いたくなるような、そんな話がジャンルを問わず好きだ。 特にSFというジャンルでは、その自由な想像力を「笑かし」の方向に振った名作がちらほらと存在する。過去にも「ユーモア…

面白いSFが読みたい人に――『中国SF女性作家アンソロジー 走る赤』

中国女性SF作家アンソロジー-走る赤 (単行本) 作者: 中央公論新社 Amazon 近年、中国SFが盛り上がっていることを否定するSFファンはいないだろう。『三体』大ヒットに牽引されるような形で続く各種作家の作品刊行の波はいまなお収まるところを知らず、そ…

ジョン・スラデック『チク・タク』内容紹介レジュメ

Tik-Tok (Gateway Essentials Book 143) (English Edition) 作者:Sladek, John Gateway Amazon hanfpen.hatenablog.com 作品情報 John Sladek "Tik-Tok"(1983) 1983年英国SF協会賞受賞作。 設定 近未来のアメリカ。家庭用ロボットが普及しており、それらには…

ジョン・スラデック『チク・タク』第1章

「才能の使いみちを間違えた天才」ことジョン・スラデックの長編"Tik-Tok"が未訳のままなことに憤り、第1章だけ勝手に訳す……という暴挙に出たのは、いまから1年半ほどまえ。 このあいだ、その記事をたまたま何の気なしに読み返してみたのだが……あまりに訳が…

巨大全レビュー企画に参加した話(告知2つ)

ハヤカワ文庫JA総解説1500 早川書房 Amazon SFマガジン・ミステリマガジン誌上で行われていたハヤカワ文庫JAの総解説企画が本になりました。僕も数作担当しました。 SF研時代に〈ファンタジーノベル大賞全レビュー〉やら〈角川ホラー大賞全レビュー〉やらが…

【告知】『カモガワGブックスVol.3 〈未来の文学〉完結記念号』出ます

note.com 11/23(祝)の文学フリマ東京で『カモガワGブックスVol.3 〈未来の文学〉完結記念号』を頒布します。 今年完結した海外SF叢書〈未来の文学〉(国書刊行会)のファンブック的な同人誌です。見どころは叢書全レビュー、編者・翻訳者etc.の裏話満載エ…

スラデック&ディッシュ共作解説

解説 人と作品 ジョン・スラデック&トマス・M・ディッシュ John Sladek with Thomas M.Disch 誌面が若干余ってしまったので、追加で解説を付すことにする。ジョン・スラデック(一九三七〜二〇〇〇)、トマス・M・ディッシュ(一九四〇〜二〇〇八)はとも…

告知(ハヤカワ文庫JA総解説PART3、BFC3ジャッジ、文学フリマ東京など)

www.hayakawa-online.co.jp SFマガジン12月号〈ハヤカワ文庫JA総解説PART3〉にて、・伊藤計劃『ハーモニー』・SFマガジン編集部編『アステリズムに花束を』・大森望&伴名練編『2010年代SF傑作選』の紹介を書いています。 個人的にはやはり『ハーモニー』評…

風化しないユーモア、超越する面白さとは?――ユーモアSFアンソロジー『グラックの卵』

グラックの卵 (未来の文学) 作者:ハーヴェイ ジェイコブズ 国書刊行会 Amazon 本書は〈ユーモアSFアンソロジー〉と謳われているが、果たして「ユーモアSF」とはそもそも何なのか? そこから考えてみたい。 編者の浅倉久志氏は過去に、「ユーモアSFの特…

『ゴーレム100』の超絶翻訳を原文と比較して検証してみた

ゴーレム 100 (未来の文学) 作者:アルフレッド ベスター 国書刊行会 Amazon アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』(100は本来べき乗表記)(渡辺佐智江訳、国書刊行会)は妙な本である。 ワイドスクリーン・バロックの大家・ベスターの持ち味である大風呂…

ジョン・スラデック『ロデリック』を読む――自閉症スペクトラムとして見るロデリック――

だれでも、どうふるまうかを知っているはずです。だれもが道筋を、考え方を持っています。(中略)でも私にはそのルールがまだはっきりとわからないのです。私には基本が欠けていたのです。――ヴォルフガング・ブランケンブルク『自明性の喪失』 アンネ・ラウ…

告知など2(ハヤカワ文庫JA総解説PART2とかぐやSF2選外佳作について)

www.hayakawa-online.co.jp SFマガジン2021年10月号〈ハヤカワ文庫JA総解説 PART2〉に、前号のPART1に引き続いて参加させていただいております。 今回の担当作品は、田中啓文『蹴りたい田中』と飛浩隆『象られた力』の2作でした。前者の奇抜な構成・装丁、…

〈未来の文学〉未刊行の、唯一無二のマッドSF――ジョン・スラデック『ミュラーフォッカー効果』

The Muller-Fokker Effect (Gateway Essentials Book 141) (English Edition) 作者:Sladek, John Gateway Amazon 年一刊行のSFムック本『SFが読みたい!』(早川書房)には毎号、各出版社による次年度出版予定のSF作品の告知欄がある。本作も、二〇〇…

黒い笑いと現世からの「脱出」願望――トマス・M・ディッシュ『アジアの岸辺』

アジアの岸辺 (未来の文学) 作者:トマス・M.ディッシュ 国書刊行会 Amazon トマス・M・ディッシュとは何者だったのか? 本書を読むと、その輪郭を掴みかけた刹那、また薄闇の中へとぼやけていっていってしまうような――そんな印象を抱く。 それはなぜか。表…

唯一無二の〈言葉の魔術師〉による短編集――ジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』

デス博士の島その他の物語 (未来の文学) 作者:ジーン ウルフ 国書刊行会 Amazon 〈言葉の魔術師〉ジーン・ウルフ。その語りは騙りであり、その騙りのみが我々の灯りである。暗闇に照らし出され、浮かび上がる像は一面でしかない。ゆえに注意深く読むことが要…

逃避としての幻想が牙を剥く瞬間――ドゾワ「海の鎖」とウルフ「デス博士の島その他の物語」

海の鎖 (未来の文学) 作者:ガードナー・R・ドゾワ 国書刊行会 Amazon 〈未来の文学〉叢書の最後を飾るのは、名翻訳家にして名紹介者である伊藤典夫編アンソロジーである。 人間に擬態した異星人を巡るサスペンス「擬態」、全世界向けの広告としてヒロシマに…

「『海の鎖』刊行記念&《未来の文学》シリーズ完結記念トークショー」レポ

bookandbeer.com 《未来の文学》シリーズ完結記念トークショー@本屋B&B、行ってきました。途中から雷と大雨の音が聞こえてきて怖かったです。傘持ってきてなかったし!! 以下レポ。 ※注意:以下、基本的に敬称略だったり付けてたり。オフレコっぽい箇所(…

〈ハヤカワ文庫JA総解説 PART1〉に参加しました

www.hayakawa-online.co.jp 本日発売のSFマガジン8月号〈ハヤカワ文庫JA総解説PART1〉に参加しております。 担当作品はJA0016『宇宙のあいさつ』(星新一)とJA0030『アルファルファ作戦』(筒井康隆)の2作。読書体験のルーツみたいな作品を担当することに…

唖然とするような怪作と歴史的名訳との臨界点——アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』

ゴーレム 100 (未来の文学) 作者:アルフレッド ベスター 国書刊行会 Amazon 怪作である。真っ赤な表紙とぶ厚めの背表紙。過剰なまでのタイポグラフィと、ロールシャッハ・テストを思わせる不可思議な挿画たち。何しろ開始二〇ページ目から出てくるのがヘブラ…

現実認識を変えるために脳6つを要求する異星人を巡る、異色言語SF――イアン・ワトスン『エンべディング』

エンベディング (未来の文学) 作者:イアン・ワトスン 国書刊行会 Amazon バベルの塔の崩壊以来、言語の統一は人類の悲願である。だからこそ人類は、「言語」という謎めいた、しかしありふれたものについて学術的興味を抱き続けてきた。本作で下敷きにされて…