現代川柳「蟹と炙り寿司」(鯨井久志&蟹味噌啜り太郎)
蟹の鳴くところにすこしグーを出す
炙り寿司逃走中の蟹確保
蟹と見間違うほどの庭園
指切りで息殺す蟹とその子ども
蟹の代わりに握ってやる掌
山折りに殻は積むのと笑う蟹
蟹と手を繋ぎあわせて飯を食う
散髪を終えた寿司屋の後をつけ
蟹味噌が汗に流れて海となり
札をつけ茹でる仔蟹の初詣で
縦列に停まる蟹たちの隊商
蟹だけの満漢全席投げ捨てる
蟹食えば蟹が鳴るなり甲殻寺
声あげて炙る小粋な寿司倅
焦げ目からオホーツクの音がする
赤飯でなければすなわち炙り蟹
貝がらに耳をすませる蟹巨匠
火を見る森を見る蟹を見る
蟹は外どうしてそんなこと言うの
炙られても鋏まで炙られるな
窓越しに挟む鋭角あいま見え
炙られて泣くものがあるか
マウンドで脚振りかぶる蟹球児
メカ蟹に改造されても味噌はある
夜汽車待つ蟹と藻屑の999(スリーナイン)
夏の山腹を見せてる炙り寿司
炙るより蒸されてみたいと思う秋
サウナから出てくる寿司屋とその息子
タリバンとタラバは似ているだから何
「解」と「虫」解散するなら出すCD
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コメント
鯨井氏から暮田真名『ふりょの星』を紹介いただき、そこからの流れで、期せずして共作の機会を持つこととなった。ご笑覧いただければ幸いである。 (蟹味噌)
ブンゲイファイトクラブのジャッジで川合大佑氏の現代川柳に触れ、そこから現代川柳には興味を持ち続けている。現実を軽やかに飛翔する奇想ぶりと、そのコンパクトさを両立させるパッケージングに大変心惹かれたのである。今回、蟹味噌啜り太郎氏に共作の話を持ちかけ、承諾いただけたのは、わたしにとっても貴重な経験であった。ありがとうございます。
分担は、共作した句を編集作業中に並べ替えているうちに、次第に分からなくなってしまった。想像いただくのもよし、考えないのもよし、それはお任せする次第である。(鯨井)