《未来の文学》シリーズ完結記念トークショー@本屋B&B、行ってきました。途中から雷と大雨の音が聞こえてきて怖かったです。傘持ってきてなかったし!!
以下レポ。
※注意:以下、基本的に敬称略だったり付けてたり。オフレコっぽい箇所(インターネットに流すのはヤバそうな箇所)はオミットしています。気になる人はアーカイブを見るか、もう見た人に直接聞いてください。
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- 《未来の文学》は2004年開始で全20冊(『ダールグレン』が2冊あるため全19作品)。河出書房新社の《奇想コレクション》とほぼ同時期(2003年開始)。
- 《奇想コレクション》と時期が被ってしまったが、ラインナップを見るとほとんど被っていなかった。
- 最初はラファティを出すつもり(全10冊)で、柳下氏に相談していた。そこから大森さんを紹介してもらい、意見を聞いてラインナップを決めていった。
- ティプトリーの長編 "Up the Wall of the World" を出すつもりだったが、ティプトリーは伊藤典夫氏が訳して早川書房から出るだろうということで取りやめに。
- 出す時は基本的に早川書房に聞いてから。SFマガジン掲載作を収録することも多いので、仁義を切る意味で。
- イアン・ワトスン『エンべディング』は若島正氏推薦(『乱視読者のSF講義』に氏の原書レビューが収録されている)。ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』は柳下氏の『文藝』連載記事の紹介から。『ケルベロス』をやるなら叢書にしよう、ということも《未来の文学》開始のきっかけの一つ。
- シリーズを通して、期の最初はウルフスタート。看板作家。
- シリーズ全体で売れたのは、ケルベロス第五の首→ゴーレム100の順。
- スタージョンは短編集を入れるつもりだったが、晶文社ミステリから藤原編集室氏編集で出た(「お前の考えるようなことはみんな考えてるから」)ので、長編の『ヴィーナスプラスX』に(いちばん他で出なさそうなもの??)。
- 《奇想コレクション》は《20世紀SF》の流れで、中村融氏企画+訳者の持ち込み。《未来の文学》は柳下・若島企画。
- フリッツ・ライバーは「影の船」を表題作で短編集を出そうとしていたが、中村氏に断られた(→その後「影の船」は竹書房の猫SFアンソロジーに収録)。
- ジーン・ウルフ短編集(ベスト・オブ・ジーン・ウルフ)は若島氏企画・全2冊で企画中。SFマガジン掲載の「アメリカの七夜論」も収録予定(追記:SFM掲載版より長いものが収録予定??)。
- SFは、「この作家ならこの翻訳者」というのが固定されて決まりがち。そういう縛りがない作家は出なくなる。日本における翻訳者の「紹介者」としての役割が大きいことの弊害でもある。
- 翻訳SFは売れた実績が大事。ウルフは『ケルベロス第五の首』が売れたので、売れなかったとしても〈何かの間違い〉扱いできた。
- ソウヤー、ストロス、プリースト、ヴァンスなどは、一度売れなかったので出なくなってしまった。ただし、プリーストは東京創元社からは出なくなったが、早川書房では売れたのでまた最近出ている。一度は出禁になったが……みたいな。
- 伊藤典夫さんに「SFを一時的にではなく、持続的に出せるように」と言われたが、《未来の文学》叢書は終わってしまった。《未来の文学》は古いものから見逃されていたものを発掘していたが、他のSFを出している社はまた違う。
- 当初はコンセプトとして「60〜70年代のSF」を謳っていたが、『海の鎖』では「60〜80年代SF」になっている。→叢書を出している間に"クラシック" の指す期間が増えた。
- 大久保譲さんは柴田元幸氏からの紹介。SFプロパーではないが、変な小説好き。結果的に『ダールグレン』も任せることに。
- 『ダールグレン』は最初山形浩生氏に話を持っていったが、長いのでやるなら複数人で……という話になり、結局単独訳者がいいだろうと大久保氏に。
- 伊藤典夫さん曰く、「自分が訳そうとしていた作品はみんな他の人がやってしまう」。(←総ツッコミでした)
- 『海の鎖』の話。企画した後で、ハヤカワ文庫から高橋良平氏編のアンソロジーが出た。ハヤカワのものは版権切れのものがメインだったので、海の鎖は版権ありの作品が多くなった。元々はハーラン・エリスン「ヒトラーの描いた薔薇」も入れる予定だったが、『死の鳥』が出た後にいい流れでエリスン短編集がハヤカワから出たのでナシに。また、新規訳し下ろしも入れる予定が、伊藤さんが間に合わず。
- 伊藤さん単独で編訳を担当した本は意外と少ない。自分が訳したものだけで編むと分母が小さくなってしまうから、アンソロジー全体で見ると必ずしもよいものにはならない(大森氏)。
- 『海の鎖』は全体的に〈戦争&ファーストコンタクト〉アンソロジーっぽい。
- ドゾア「海の鎖」がラストなのは伊藤さんの(やはり)意向。《未来の文学》の終わり方としてふさわしいと。孤独な少年テーマで、「デス博士の島」を思い出す(柳下氏)。
- 「リトルボーイふたたび」は樽本さんからのリクエスト。ここを逃すと収録できそうにないので。宮内悠介は「リトルボーイふたたび」好きすぎ(大森氏)。
- 伊藤さんの真骨頂は70年代のニューウェーブSFの翻訳だと思うが、あんまり入ってない。もっと入れても良かったのでは。(柳下氏)→意外と他で単行本に入っている。今回はあくまでも「単行本未収録」からのセレクト(樽本氏)
- 伊藤さんはインターネットでは読書メーターだけは見てる。ファンレターは読書メーターに。
- 「フェルミと冬」最終2行の文字数が同じなのは、原文と同じ。「やはり伊藤さんは天才型の訳者」(樽本氏)
- サンリオSF文庫の未刊行作品は意識していなかった。後から指摘されて知ることが多かった。『エンべディング』やラファティ作品など。
- 《未来の文学》には女性作家が1作も入っていない。ラインナップ段階では、ティプトリーやジョアンナ・ラス、バトラー、ウィルヘルムなども考えていた。キャロル・エムシュウィラー は、《短篇小説の快楽》に移した。《未来の文学》叢書は割とふざけているものが多いので、バトラーはシリアス過ぎるかと思って外した。
- 反省の意味もあり、ティプトリーの伝記を刊行予定(北川依子訳)。「ジュディス・メリルの伝記も出してほしい」(大森氏)。
- 『伊藤典夫評論集成』は1200ページくらい。箱入り2分冊(分売不可)。
- 伊藤さんにゲラを見せると、赤入れで戻ってこなくなるので(前例あり)、『評論集成』のゲラは見せていない。*1
- ジョン・スラデック『ミュラーフォッカー効果』は、浅倉久志訳で進めていたが、浅倉さんが亡くなってしまった。その後渡辺佐智江さん訳でやる予定にしていたが、別の仕事をお願いしてそこからそのままになってしまった。「スラデックの中でも一番訳の分からない作品*2。他にもいいのあるのにって当時言った」(柳下氏)。
- それぞれのベスト:
- 橋本さん→『ゴーレム100』。《未来の文学》らしい作品。渡辺さんの超絶翻訳。
- 柳下さん→自分が訳した作品を抜くと、『エンべディング』。でも訳者あとがき(山形氏)がよくない。元々はもっとひどかった(樽本氏)。
- 大森さん→星5つを付けたのは『デス博士の島その他の物語』『ドリフトグラス』。
- 奇想コレクションは読みたい!1位取ってない。未来の文学はデス博士で取った。
- ドリフトグラスの装丁→「ここまでする必要なかった……」(樽本氏)
- ドリフトグラスの真っ白な装丁は、光の角度で文字が浮かび上がる「ドリフトグラス」オマージュ仕様。ただそんなことは分かるわけもなく……(悲しい)。
- 樽本氏の思い入れの1冊:『ダールグレン』のゲラを読んでいた日に、東日本大震災が起きた。ちょうど『ダールグレン』の最後も同様の大災害が起こるので、そうしたリンクを起こすディレイニーは「やはりすごい」。
- 20冊揃ってる内に、買える内に買ってほしい。(樽本氏)
- 全揃いで一気に買った人はまだいない。全部で5万円……!!
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貴重なお話ありがとうございました。個人的には、「海の鎖」収録順はやっぱり意向通りなんだ! とか、ミュラーフォッカー効果の顛末が聞けて、大変嬉しかったです。あと、やっぱりイベントはいいですね。久しぶりに参加できて楽しかったです。