この記事は、藤ふくろうさんが主催している「海外文学 Advent Calendar 2022」12月11日のエントリーです。
カモガワGブックスVol.4 池澤夏樹編=世界文学全集全レビュー でお会いしましょう
— くじらい🐳 (@hanfpen) 2022年11月20日
池澤夏樹編世界文学全集全レビュー、ツイートしたら歴戦の猛者たちが挙手してくれて完成の芽が見えはじめた
— くじらい🐳 (@hanfpen) 2022年11月21日
先日、Twitterで「次は池澤夏樹=編 世界文学全集全レビューをやるしかないなあ」と安易につぶやいたところ、またたく間に15人ほどのガイブン猛者たちに捕捉され、あっという間にレビュー担当リストが埋まってしまった。今回のアドベントカレンダーを主催している藤ふくろうさんにも参加希望をいただき、その流れで今回、アドベントカレンダーにも参加することになった。
というわけで何を書くか、いろいろと悩んだのだけれど、そもそも自分が海外文学の全レビューに手を染めだしたきっかけや、これまでの全レビューで記憶に残った巻などを振り返っていこうと思う。
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そもそも、自分が学生時代に所属していた京大SF研やそのOB周りでは、叢書の全レビューをするという文化が何となく存在していた。〈ファンタジーノベル大賞全レビュー〉〈角川ホラー大賞全レビュー〉〈奇想コレクション全レビュー〉〈海外文学セレクション全レビュー〉……etc. 数多存在した過去の全レビューのバックナンバーを読む中で、自分でも、いつかやってみたいなあと思っていた。
そんなとき出会ったのが、ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』だった。当時「幻の傑作」とされ、絶版になった古書が高値で取引されていたなか、水声社のラテンアメリカ文学叢書〈フィクションのエルドラード〉内の一冊として復刊されたのだ。その虚構と現実が悪夢のように渾然一体となった物語を、一気呵成に読み終えたわたしは思った、「これ、叢書全部読んだらもっとおもしろいんちゃうか……?」と。
全レビューの最大の利点は、普段だったらなかなか読まない本を読むモチベーションを得られることだと思っている。読書会でもそういったある種の強制力は得られるが、全レビューはまた格別なものがある。そういう意味では、全レビューは全冊一人でやるのが理想だ。叢書全てを読み終えた者にだけ見える地平というものは、幻想かもしれないが、やはりあるのではないかと思ってしまう。〈フィクションのエル・ドラード〉ではそのほか、ジョゼフ・コンラッドの実在の小説の成立を題材に、虚実を入り交ぜて歴史の重みを描いたフアン・ガブリエル・バスケス『コスタグアナ秘史』など、全レビューをしなければ手に取る機会を逸していたであろう名作に巡り会えた。
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海外文学レビュー同人誌〈カモガワGブックス〉を立ち上げ、〈フィクションのエル・ドラード〉全レビューを敢行したわたしは、とどまることなく次の全レビューできそうな叢書探しに勤しんだ。〈フィクションのエル・ドラード〉ではかなり重量級の長編を多く読んだ反動もあり、次は短編かな……という気分になっていたこともあり、翻訳家にして名アンソロジストでもある柴田元幸氏が編んだアンソロジーを全レビューすることにした。
〈柴田元幸編アンソロジー全レビュー〉で記憶に残っているのは、やはり異様な打率を誇る『夜の姉妹団』だ。スティーヴン・ミルハウザーの美しい幻想短編である表題作にはじまり、ドナルド・バーセルミの文豪イジり短編、ジョン・クロウリーによる〈不倫〉〈猫〉〈肥料〉の三題噺短編など、どれをとってもその年の読書ベスト級になりうる短編が揃った素晴らしいアンソロジーだった。
芥川龍之介が英語教師時代に編んだというアンソロジーから、良作を選びぬいて再編集された『芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚』も印象深い。現代を代表する名翻訳家オールスターと言っても全く過言ではない翻訳陣がずらりと揃っているのも壮観だし、選ばれている短編も今読んでも全く古びていない。
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さて、ここまで海外文学を中心に全レビューをしてきたのだが、本来の自分の性分はSFである。そういうわけで、次やるならSF絡みの叢書がいいなあ……と思っていたところに舞い込んできたのが、国書刊行会から刊行されていた海外SF叢書〈未来の文学〉完結の知らせ。
〈未来の文学〉といえば、60年代〜70年代の「幻の傑作」(評判は極めて高いが、未訳のままだった作品たち)を続々と世にはなってきた、ゼロ年代以降の海外SFシーンを振り返る上で極めて重要な叢書である。最終巻である『海の鎖』は長年刊行が予定されながらもなかなか刊行に至らず、永遠に完結しないのでは……なんて予感すら漂っていたさなか、突如発表された刊行の知らせはまさに青天の霹靂であった。そして同時にかつてないほどの全レビューの好機でもあった。
すかさずわたしは〈カモガワGブックス〉の次号を〈未来の文学〉特集にすることを決め、いそいそと全レビューの準備に取り掛かった。
〈未来の文学〉は学生時代から少しずつ読んでいたとはいえ、全レビューをする過程で再読することになり、多くの知見と感慨をふたたび得ることができた。特にジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』で描かれる「閉じた世界」の残酷さと暖かさは、今後読書をするたびに、折に触れて思い返してしまうだろう。
そのほか、同人誌内の企画として世紀の奇書『ゴーレム100』における渡辺佐智江氏の超絶技巧翻訳を、原文と照らし合わせて確かめるという記事も書いたが、これは自分でやっていても大変おもしろかった。本当にすごいです。
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さて、手短にではあるが、これまでの全レビュー遍歴を振り返ってみた。
繰り返しになるが、全レビューの良さは、ひとりでは決して読まないであろう本を読む強烈な外部推進力を自分で設けられるという点だ。これを読んだみなさんも、ぜひ何か叢書を全て読むということをおすすめしたい。完遂できなかったとしても、そうした観点から読書をしてみることで、何か得られるものもきっとあるはずだ。
では次回〈池澤夏樹=編 世界文学全集全レビュー〉でお会いしましょう!